センター長挨拶・理念
Greetings / Philosophy

上條 吉人
  • ご挨拶
  • 上條 吉人

東京工業大学理学部化学科と東京医科歯科大学医学部を卒業し、やがて精神科をサブスペシャリティとする救急医となった私にとって「中毒」は非常に魅力的な分野でした。毒性のメカニズムや解毒薬・拮抗薬の作用機序などを理解するのに「化学の知識」は非常に役立ちました。急性中毒の多くは精神科的背景を有する患者の自傷行為・自殺企図によるものです。従って、身体的のみならず精神科的評価・治療も必要となり、救急医のみならず精神科医としてのキャリアも非常に役立ちました。

長年、北里大学病院および北里大学メディカルセンターで「中毒」を専門とした救急医としてキャリアを積み、世界の「中毒」の専門家との交流を深めていくうちに、これまで世界にはあるのに、日本には1つもなかった「中毒」の臨床および研究の中核施設である「中毒センター」を立ち上げたいという夢が膨らみました。2015年7月に、当時の埼玉医科大学病院救急科診療部長の芳賀佳之教授から「当院で中毒をもっとやってみませんか」というお誘いを受けて当院に赴任したのは、もともと当院が「毛呂病院」という単科精神科病院から発展し、神経精神科・心療内科が病床とともに充実しているのが大きな理由の1つでした。

赴任後、「救急センター」に併設される形で「中毒センター」が立ち上がりました。臨床面では、自殺対策の専門家である公認心理師の高井美智子先生を客員講師に迎え、神経精神科・心療内科との連携を深めるために私が兼担教授となりました。研究面では、GC/MSおよびLC/MS/MSなどの分析機器を導入し、客員准教授の臼井聖尊先生の指導下で医師の花澤朋樹先生と薬剤師の芳澤朋大先生が薬毒物分析を担当しました。その結果、薬毒物分析をからめた中毒の研究業績を着実に英文で報告できるようになりました。

そして、2020年の春に札幌医科大学から「中毒」に心酔する喜屋武玲子先生を講師に迎え、2021年の春に「救急センター」から独立して「臨床中毒センター(Clinical Toxicology Center)」が立ち上がりました。この名称は、私が中心となって立ち上げた「日本臨床・分析中毒学会(Japanese Society of Clinical & Analytical Toxicology)」、および私の単著である「臨床中毒学」(医学書院)に因んだものです。早速、喜屋武講師が素敵なロゴをデザインし、キャッチコピーを考案し、ホームページを立ち上げてくれました。

私の在任中に「臨床中毒センター」「日本臨床・分析中毒学会」「臨床中毒学」の3者が共に発展を遂げ、日本のみならず世界の知るところとなれば最高の幸せです。

臨床中毒センター長 上條 吉人